「計画におけるグレシャムの法則に陥っていませんか?」

「悪貨が良貨を駆逐する」 これは、イギリスの王室財政顧問のトーマス・グレシャムが1560年頃に唱えたとされる法則である。
額面は同じ2種類の金貨を考える。一方は銀の含有量が高く、金の含有量が低い金貨、いわゆる悪貨、もう一方は銀の含有量が低く、金の含有量が高い金貨、すなわち、良貨である。
これらが市場に流通すると、良貨が姿を消してゆき、悪貨が市場を席巻するという法則である。これは、額面価値が同じであっても、金の含有量の多い良貨は素材価値が高い為、手元に置いておきたいという心理が人々の中ではたらくからである。普段の買い物には素材価値の低い悪貨を使用し、良貨は手元に蓄えていく。これにより、市場には悪貨が主に流通することとなるのである。
この法則を踏まえ、ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが唱えたのが「計画におけるグレシャムの法則」。目の前の業務に忙殺されるがあまり、本来、腰を据えて取り組みたい戦略立案・決定などが後回しにされるというものである。経営環境の変化が激しくなるにつれて、過去の経験則や与えられた権限の範囲では判断がつかない例外処理といわれるものが、組織の末端に増えつつある。末端で処理することができないこれらの例外処理は組織の上位層に持ち込まれることとなる。しかしながら、ここでも、従来の権限や過去の経験則では判断できない場合、さらに組織の上位層に持ち込まれる。このようにして、経営環境の変化の激しさが増せば、経営者や管理者に持ち込まれる例外処理はさらに増加してゆく。その結果、中長期的な戦略立案・決定などに十分な時間を割くことが出来ない自体に陥るのである。
この問題に如何に取り組むべきか?その点については、「組織戦略の考え方」(沼上 幹:ちくま新書)などが参考になる。権限委譲や、教育などにより組織の各層における処理能力を高めることなどが記述されている。一度、お読みになられてはいかがだろうか。
「最近、目の前の仕事に追われている…」、そう感じている方がいらっしゃれば、それは計画のグレシャムの法則に陥っているのかもしれない。